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読書感想文 『クロックワイズ・メカニクスへようこそ!』

  • 執筆者の写真: C.ピンク
    C.ピンク
  • 2018年2月8日
  • 読了時間: 8分

 スチームパンクと聞いて想像するものは――――蒸気と歯車。といった程度には想像力に乏しい上に、そもそもスチームパンクものの小説・映画・アニメやゲームでさえ不得意なピンクが、唐突に手に取った一冊。


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『クロックワイズ・メカニクスへようこそ!』


〇前置き


 名古屋のデュエリストで物書きというだけで親近感を覚え、勝手にライバル視している『山田えみる』先生が2015年から二年間、同人サークル『ぽっぷこぉーん』様の季刊誌にて連載し、2017年に単行本化された本作。


 上記と歯車の街『アンティキティラ』の歯車機械工房『クロックワイズ・メカニクス』を祖父から受け継いだ犬獣人クストと、田舎からやってきた羊獣人の技師ウルウルが、工房に持ち込まれた様々な依頼や事件に立ち会う物語である。


 さて、前述したとおり私は酷くスチームパンクが不得意なタイプである。しかし、ひとつの作品を最大限楽しむために、“必ず三周する”という自分ルールを設けている。一周目は単語や文章の意味など“分からないポイント”に付箋を貼り付け、二周目で意味(元ネタ)を調べながら読み、三周目で完全に物語に入り込むという手段をとっているのだが……


 正直に言うと、最初の二周はアホ程苦痛だった!!!!


 アンティキティラやコペルニクス、ヴォイニッチやロムルスレムなど流石に(おぼろげながら意味を)知っている単語は良いが、犬獣人と書いてファミリシア、猫獣人と書いてフェリシアス、階差機関と書いてディファレンシャルエンジン、ザン=ダカ商会など次々にルビ付き固有名詞が襲い掛かり、挫折寸前まで追い込まれたことを素直に告白しておこう。


 が、それでも三周目には流石の鳥頭もいい加減スチームパンクマンボジャンボに慣れきってしまい、ようやく物語の本質に触れることができた気がしてホッと胸を撫でおろしていた。……って、ぶっちゃけ俺の頭が悪いだけじゃねーかソレは!!!!


〇薄味なようで仕掛けがある


 さて、本作(単行本版に限る)は全五話+番外編で構成され、各エピソードで違った依頼(事件)がクロックワイズ・メカニクスの工房に持ち込まれるというオムニバス形式に近い構成となっている。ピンクは読み進める中で『アレ?』と首をかしげる箇所が何度もあったのだが、それは決まって各エピソードの終わりだった。


 そうなった理由は実に単純で、1エピソードが短めで、かつ主要人物のバックグラウンドについての説明が少ないからだ。これが欠点のように感じられてしまい、最初のうちは『もっと長いエピソードにしてキャラを掘り下げればいいのに』とさえ思った。特に、主人公のクストとヒロインのウルウル(ウル)については心情面での描写が二話時点でほぼゼロであり、ウルの双子の妹エルエル(エル)が登場する二話でさえ、出自に関して描かれても深入りした心理描写が無いため、“クストがウルにこだわる理由”が、仕事の都合上という生々しくて主人公らしくないものに感じられた。だのにエルはエピソード終盤で本心を打ち明けるセリフがあったため、サブキャラである彼女のことばかり気になってしまう。(エルに関してはもっと言いたいことがあるので後述)


 せっかく魅力的な魔法のラジオがあるのに、『この世界ではどんな大衆文化があるのだろう?』と思っても、その技術に関しては記されても利用している姿は見られず、非常にもったいない。


 が、三話に差し掛かり『いい加減二人についてもっと知りたいぞ』と思った途端、それは怒涛の勢いで始まった!


 ただ事件に立ち会うだけだったクストが自分から行動するタイミングは絶妙で、『がんばれ!』と応援したくなる立ち位置に一気に登り始める。新キャラクターの狐獣人ノインでさえ『このクソガキめ』と思い始めた途端に可愛らしい内面が一気に描かれ、『キャラのことが分かったところでもっと世界に深入りしたい』と思ったところに占いを嗜むクストなど、世界を構成する細やかなディテールについて触れはじめる。


 焦らしに焦らして、いい加減必要だなと思ったところに次々と必要なものが必要なだけ流れ込んでくるじゃねーか!!


 この構成はストーリーラインでも生かされており、一読しただけでは短めで薄味な各エピソードであるが、それひとつでは特別な意味は感じられなくても、最後まで読むことでようやく全ての歯車(エピソード)がかみ合い、全ての要素が一連の歯車機構であることが判明するのだ。


 故にピンクは三周目を読み終えた後、すぐさま四周目を読むことにした。あらまびっくり、平凡だった各エピソードが驚くほど愛おしくなっており、最終話における各登場人物(特にクスト)の頑張りの結末に絶大なカタルシスが待ち受けていることを理解できた。この見事な仕掛けには脱帽せざるを得ない。


 またより個人的な話になってしまうが、山田えみる先生に対する勝手なイメージの為に、地の文を含めた話の内容が凝り固まった古典的でユーモアの入る余地のない描き方なのではと思い込んでいたが、意外とラノベ的かつ俗物的なシーンもあったりして安心しました。ごめんね先生。


〇キャラクターについて


 キャラについてだが、実を言うとすき嫌いが激しい。あまり言いたくはないが、ローランとガブリエッラは四周した今現在でさえ物凄く嫌いで仕方がない。というのも、ローランは結局のところ導入意外で特別な役割が無く、傭兵とはいえ急にナイフを突きつける危険人物にしか見えなかったし、最終話に至っては“ある悲劇”の一因となってしまう始末。ガブリエッラはピンクが高慢ちきな女が嫌いなだけです。あと物語的にもあんまり役に立つシーンが無い割に上から目線が多くて名前的にめざパ氷ぶつけたくなりました。耐えそうだけど。


 が、それ以外はほんとにほんとにほんとにほんとに全員好きになってしまった。少しだけ触れたように、ノインも初登場時は『このクソガキめ!』となってしまうが、子どもらしい一面に触れた途端に可愛らしく見えたし、クストとウルの関係性も大好物のラブコメテイストな部分で一気に惹きつけられた。


 ここでどうしても我儘を言いたいのだが、第三話においてオバケを怖がるウルがクストの部屋で寝るシーン、クストのウルに対する“異性としてのほのかな想い”に少しだけ触れる最初のシーンなのだが、クスト視点で『彼女は自身のことを異性として意識していなのでは?』と、彼も読者も一緒にヤキモキしてしまう。


 私ならここでクストに背中を向けて布団で顔を半分隠し、目をトロンとさせたウルの挿絵を入れただろう!!!!


 以上、ウルの表情の意味はまどろんでいるだけなのか、それとも……と言った風な演出をしてほしかったなぁ……というクッソどうでもいい欲望でした。そのままでも十分ときめくわ。


 あとエルエル。うん、エルエル。


 俺の金でエルちゃんにウマイ食い物をたらふく食べさせたい。


〇パロディは……


 欠点だと思っていたら読み進めるほど良くなってくるというのが本作の良さであるが、どうしても受け付けなかったのが幾つかのパロディ要素である。


 中盤にいくつかあったもの(アンティークギア~)は考え過ぎだろうと思っていたが、終盤ノインのセリフにある露骨な遊戯王パロディで確信に変わった。だがこればっかりはいくら有名なネタでも“遊戯王プレイヤーかアニメファンしか本質の分からないネタ”であり、一連のシリアスなシーン全てがコメディに見えて仕方がなかった。


 また山田えみる先生の作家性というか癖のようなものなのかもしれないが、せっかくアンティキティラという世界に入り込んでいる中、セリフで『地の文』と書いて『こころ』と読ませる手法は、美しい幻想の世界から追い払われたような感覚に陥り、興ざめしてしまう。これは『クロックワイズ・メカニクス』が確固たる世界観を持った、ひとつの現実であると信じたい気持ちを真っ向から否定することになってしまうのだ。


〇まとめ


 手前勝手な好みの都合でなんだかんだと文句をつけてしまったが、読後の何とも言い難いさわやかさはここ最近読んだ小説の中では間違いなくトップ。欠点だと思ったところに次のエピソードが噛み合い、駆け抜けるように最終話まで回し続けるため、スチームパンクものが得意な方なら一気読みしてしまうこと間違いなし。逆に私のような食わず嫌いの多いタイプにも是非手に取ってもらいたい一作である。


 ちなみに知人と『ガブリエッラが悪女かそうでないか』の議論で殴り合いの喧嘩になりました。負けました。


〇本音


 山田えみる先生に対する凝り固まった印象が払しょくできて正直すごくうれしいです。こんなにも素晴らしい作品を書ける人が身近にいると思うだけで俄然やる気になれます。と言っても、『ちくしょう悔しい!! 俺も書くから覚悟しておけ!!』という短気なやる気ですが()


 先生とデュエルの場で出会ったことで、『クロックワイズ・メカニクスへようこそ!』と出会い、本作が再び私に『書く勇気』の発条を回してくれました。自身の不甲斐なさに打ちのめされて尚、立ち上がってがむしゃらに頑張ったクストのように、私も不甲斐ない自分に負けないように頑張ります。


 長くなってしまいましたが、拙文にお付き合いしていただきありがとうございました。


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 このセリフホントカッコイイ。























〇ところで


 ザン=ダカ商会だけ元ネタが突き止められませんでした。



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 まさか残高照会とかけたダジャレだなんて言いませんよね?

コメント


​地底おでん

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